朝戸出
歌詞
定めなき 嵐もそいて同じ絵に 花かと霜の おきても独り 鳥の鳴く声 春には似ても 落ち葉色々落ち葉が中に 好いた銀杏に取り上げ髪の ゆえば姿も大阪という 在所生まれの梅の花
解説
作詞
泉明
作曲
玉岡検校・村住勾当
時期
天明2年(1782年)の『歌系図』に出ているのが最初。
字句解釈
朝戸出:『万葉集』にも用いられている雅語。早朝に戸外に出てみること。
定めなき:いつとも定まることなく、突然やってくる。
嵐も添ひて:嵐まで加わって。嵐は気象の嵐と人の運命の上に襲ってくる嵐、死とをかける。無常の嵐がやってきて。
花かと霜の置きて:花かと思えるほど真っ白に霜がおりて。
落葉:木の落ち葉と故人をかける。
梳いた銀杏:髪を銀杏に梳くこと。好いた銀杏をかけ、また、木の葉の銀杏ともかける。銀杏はが銀杏の葉の形のように開いた髪形。
取あげ髪:死んだ人の髪を結うこと。
いへば:えば、の上方方言。髪を「結う」と「言う」にかけ、言ってみればという意味をきかす。
在所:田舎。京の都に対し、大坂を在所といったもの。
大坂新町の高島屋でんの追善曲として作られた。高島屋でんの突然の死をいたみ、故人の好んだ銀杏姿の清楚な姿をなつかしんだもの。
急に寒さに添えて嵐までやってきて、梅の枝に咲く花かと見まごうように真っ白に霜がおり、花は散ってしまった。ひとり鳥の啼く声を聞いていると春のおとずれを告げるかに似てはいても、朝の寒さは厳しく、落ち葉がいろいろ散り敷いていて、その中にも銀杏の葉が故人の好んだ銀杏髷をなくなった時梳いてあげたのを思い出させる。たとえていえばその姿も、大坂という田舎生れの清楚な梅の花のようである。
解説
舞では、追善的な意味を離れて、晩秋から早春にかけての早朝の叙景として振付されたものが多い。
朝早く戸を開けて外を見ると霜が真っ白に下りて、髪をかき上げながら、うっとりと梅の花を見る――――というような艶物的な取りあげ方が見られる。
寝乱れ姿のまま戸の外に立つ女人を思わせるかのように、ふところから手先を出して髪をかき上げるふりがあり、しんみりとした艶物としてまとめている。