鉄輪
歌詞
忘らるる 身はいつしかに浮き草の 根から思いの無いならほんに 誰を恨みんうら菊の 霜にうつろう
枯野の原に 散りも果てなで今は世に ありてぞ辛き我が夫の 悪しかれと 思わぬ山の峰にだに 人の
嘆きは生うなるに いわんや年月 思い沈む恨みの数 積りて執心の鬼となるも理や いでいで恨みをな
さんと 笞(しもと)振り上げ後妻(うわなり)の 髪を手に絡巻いて 打つや宇津の山の 夢現とも別かざ
る浮世に 因果は巡り合いたり 今更さこそ悔しかるらめ さて懲りや思い知れ ことさら恨めしき 徒
し男を取って行かんと 臥したる枕に立ち寄り見れば 恐ろしや御幣(みてぐら)に三十番神ましまして
魍魎鬼神(もうりょうきじん)は穢らわしや 出よ出よと責め給うぞや 腹立ちや思う夫をば 取らで剰(あ
ま)さえ神々の責めを蒙(こうむ)る悪鬼の神通 通力自在の勢い絶えて 力も弱々と 足弱車の巡り合うべ
き 時節を待つべしや 先ずこの度は帰るべしと 言う声ばかりは定かに聞こえ 言う声ばかり聞こえて
姿は目に見えぬ鬼とぞなりけり
解説
この曲は、能の《鉄輪》(かなわ)の物語をもとに作られた曲です。 若い女に気移りした夫に復讐する
ために、貴船の社に詣でて、生きながら鬼神にしてほしいと懇願し、ついには鬼神になったという物語で
す。