木津川

歌詞

折から月の出汐や 流るる方は木津川へ 漕ぎ紅に染めこみし 

紅葉故郷へ錦せん ちりゆく葉末はらはらと降るは涙か秋雨か

しかとはならん かわづつみ

解説

二上り。上方端唄。

三世中村歌右衛門作詞、作曲。

天保年間のはやり歌の一つで、秋を描いた名曲。

短い本局のみを収録した薄物の唄本も刊行され、江戸歌の歌本にも収録されている。

題名の木津川は、大阪を流れる淀川の分流で、廻舟の発着場があった。

折から月が山の端に出て、木津川が美しい紅葉で染まっている。

はらはらと葉が散り、秋雨か涙が木津川へ落ちているという静かな秋の風景が描かれてい

る。

「月の出」と「出で潮」、「漕ぎ来る」と「濃き紅」などの掛詞や、紅葉から縁語の鹿を

ひくなど、和歌の手法でイメージが連鎖していく。

「降るは涙か」を謡曲の「熊野」からとっているなど、謡曲や和歌を思わせながらも、あ

まりに常套的で花札を連想させるような秋の「月」「紅葉」「雨」「鹿」などを使い、

逆に紋切り型を茶化すような洒脱な風情が出ている。