ぐち

歌詞

ぐちじゃなけれど  コレマアきかしゃんせ  たまに逢う夜の 

楽しみは 逢うてうれしさ別れのつらさ  エエなんの鳥か意地悪な

お前の袖とわしが袖 合せて唄の四つの袖

路地の細道駒下駄の 胸おどろかすあけの鐘

お前のことが苦になって  二階住まいの恋じゃない

解説

上方端歌。本調子。作詞作曲者不明。

「ぐちじゃなけれど」から「なんの鳥か意地悪な」までの前半は、たまにしか会えない男 との久しぶりの逢瀬のうれしさと、朝が来て別れねばならぬ辛さをうたったもの。話し言葉 のようなクドキが本曲の魅力である。

 後半は、「お前の袖と」、「路地の細道」、「お前のことが」と三番の構成となっているが、 三番目はないことが多い。本来は全曲下座唄かと推測される。 

「合せて唄の四つの袖」あるいは「合せて二人四つの箱」の「四つの旅」とは鶴山勾当の

古曲「四つの袖」のこととされる。おそらく古曲の「四つの袖」が忘れられるにつれ、歌詞 のつじつまをあわせるために「二人」と改変されたものであろう。地唄の「四つの袍」は、 西鶴の「武道伝来記」巻一に「旅鴈 心あらば、其声にして、此歎き、つげよ、掛浪の、玉 には濡ぬ、四つの袖、糸の音じめに愁歎ふくみて、いと哀れにぞ聞えし」とあり、哀愁漂う 切ない恋の唄の代表格であったと思われる。おまえとわたしの袖を重ね合わせると、有名な 唄の「四つの袖」のようだねといった相思相愛の内容。内容と異なり、哀しげな曲調のこの 部分は、「梅川忠兵衛」井筒屋の下座で使われている。心中へと追いつめられていく二人の 心情に情感を添えるのである。ほかにも、立廻りや殺しの場面で下座唄として使用される。「路地の細道」は、駒下駄を履いて、細い路地道を恋しい人のもとは急ぐうち、明けの鐘 が鳴って、動悸がしている様子を描いた。駒下駄は、もと雪の日や水を打った庭様の履物で あったが、女性の履物に使用されるようになり、新吉原で角町菱屋の美蓉がはき始めてから (「吉原青楼年中行事」)、遊女たちや玄人の女性の愛用するものとなった。この部分も下座として用いられる。 

「お前のことが」は、恋しい人が出来て、その人への想いが募って、遊女の身で恋の病に かかっている様をうたったもの。「二階住まい」は遊女のこと。青楼で遊女の部屋は二階にあった。

井上流をのぞく各流で舞われている。小品ではあるが、しっとりとした艶やかな情感にあ ふれており、上演頻度の高い艶物の代表曲である。

出典

別冊演劇界 伝統芸能シリーズ

日本舞踊曲集成 京舞上方舞編 演劇出版社