袖香炉(そでこうろ)

歌詞

春の夜の 闇はあやなしそれかとよ かやは隠るる梅の花 散れど薫りはなほ残る 袂に伽羅の煙り草 きつく惜しめどその甲斐も 亡き魂衣ほんにまあ 柳は緑紅の 花を見捨てて帰る雁

解説

作曲:峰崎勾当 作詞:錺屋治郎兵衛。

二上り端唄。峰崎勾当が師の豊賀検校を偲んで作曲した追善曲。

「古今和歌集」にある大河内躬恒の和歌、

春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる 

から歌詞を取り入れ、「それかとよ か(豊賀)やはかくるる…」と、豊賀検校の名前を読み込んでいる。袖香炉とは、ジャイロ式の仕掛けで中が水平に保たれており、袂に入れて持ち運べるようになっている携帯用の香炉。闇夜にも薫る梅の花、香炉から上る伽羅の煙といった香りの表現、後半の「柳は緑紅の花」(唐の詩人蘇東坡が「柳緑花紅真面目」と吟じた詩文によるもので、よく知られた禅語)を見捨てて「帰る雁」(春の季語)という視覚的な表現が組み合わさっている。亡き人をしのぶ、しっとりとした美しい詩情のある曲であるとともに、華やかな風情もかんじられる。